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番外編:康耀堂美術館

*基本データ

場所:茅野市

行った日:2022/9

美術館URL⇒康耀堂美術館 (koyodo-museum.com)

康耀堂美術館は、京都芸術大学が運営しており、館長は千住博氏。近現代の日本画作品・洋画作品・ガラス工芸作品など約400点を収蔵し、年3回のコレクション展を開催しています。(11月末頃~4月中旬頃まで冬期休業あり)

倉島重友《霧の道》1994年

日本画、紙本彩色、箔洗い出し、80.3×116.7㎝。横長の画面の中央には、後ろを振り返る女性が大きく描かれ、背景には、霧にかすんだ森や道、道の脇には花をつけた合歓の木が見えます。

合歓の木は、夜になると葉を閉じることから、眠りの木と呼ばれ、そこから合歓の木になったという説もあります。合歓の木は、倉島画伯の作品では何度も描かれ、2012年の再興第9回院展では《合歓》という作品で、内閣総理大臣賞も受賞しています。その作品を紹介したコメントの中で「私の住む龍ヶ崎には、合歓の木が多い。ことに気に入っているのは、画室の西側の窓の下に広がる大きな窪地の中央の合歓の木だ。朝霧の中、夕べに勢いを増した柔らかな花群(花の群れ)に爽やかな微風が渡り、合歓の葉は目覚める」と話しています。倉島画伯は、1985年から龍ヶ崎で暮らしていますので、この作品が描かれた1994年にも、画室の窓の下には合歓の木があったと思われます。

この作品は、全体的に抑えた色調で、幻想的な雰囲気を感じさせますが、女性が身に着けている赤いストールの下に透けて見える、腕や白い服の繊細な描写によって、見る人を現実の世界へ引き戻します。さらにストールの端に沿ってつけられている飾りの青い点が、アクセントになって画面を引き締めています。

女性が立っている場所からは、道が霧にかすんだ森に続いています。このような行く先がよく見えないという状況の中でも、女性の表情からは、不安や恐れは感じられません。口元は閉じられ、その眼は自分が歩いてきた方向をまっすぐに見つめ、今まで自分が歩んできた道の正しさと、これから歩んでいく未来に対する自信を感じさせます。朝霧の中で目覚めた合歓の木は、彼女の将来を祝福しているかのようです。

倉島画伯は、この作品が描かれた年の4月に、広島市立大学 芸術学部助教授に就任しています。新たな道を歩み始める自身の想いも、この作品に重ね合わせていたのかもしれません。

尖石縄文考古館の近く。ロケーションも素晴らしい。